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フラムの日々

クロノス小説~堕ちて逝く魂~

第八章

~堕ちて逝く魂~

神殿の中には、唯、重なり合う金属音と魔物の断末魔で響き渡っていた。
あれから、ラルフ達率いるD班は2階へと移動し、作戦も順調に進んでいた。
「なんてモンスターの数・・・これじゃあシドスの連中も見つかりませんよ!」
一人のウォーリアが戦いながらそういうとラルフは言った。
「人に喋っている暇があったら戦え!それに俺達の目的はシドスを上へと追い詰めれば良いだけだ!」
そういうとその場には誰も喋る者がいなかった。
ラルフは骸骨剣士、ペラトゥスと刃を重ね、瞬時に剣を引くとペラトゥスの胴を払った。
そして、その場の敵を殲滅すると、兵士達は次々と息を漏らした。
「幸い、死者が出ていない。まだ行けるな?皆。」そういうとラルフは腰に付けていた水筒の水を軽く口に運んだ。生温い。
兵士達は無言で頷くと直ぐに進むための準備を始めた。

「マエルさん!俺を、俺をモンタヌゥス神殿に移動させてくれ!」
ルシアは左手の拳を握ると、マエルに怒鳴るように言った。
「だめだ、お前一人では危険だ。やめておけ。」
マエルは静かに、威厳を持って言うと首を振った。
「俺は行く!死んでも誰のせいにもしないから!早く俺を連れて行ってくれ!」
「・・・・」
マエルはルシアの目をじっと見つめると、頷いた。
「分かった。よかろう。そうだ、コレを持っていきなさい。」
マエルは地面に着くように長いローブの中から二つの書物を取り出した。
「これは、一体?」
「フォーススクロールとディフェンススクロールだ。これに書いてある呪文を唱えれば身体能力が大幅に上がる。」
ルシアはそれを受け取ると、ありがとう。と言い、マエルによってモンタヌゥス神殿に飛ばされた。

「うげぇ・・・やっぱだめ。これだけは慣れない・・・」
ルシアは吐き気を堪えると、神殿を見回した。
「随分広い神殿だな。」
ルシアはマエルから受け取ったスクロールを開くと、意味も分からない文字が書いてあった。
「なんだよこれ・・・読めないよ。これじゃあ・・・」
そんなことを呟いていると、自分の口から良く分からない言葉がいつの間にか漏れていた。
(な、俺何喋ってるんだ・・・)
そして、その言葉を喋り終わると、不思議な感覚が体から溢れてくる。
「もしかして、この文字は見るだけでその呪文を唱えられるのか。」
ルシアはスクロールに書いてある文字を見ていると、そのスクロールは自然に燃え尽きて消えていく灰のように消えた。
「1度しか使えない・・・・か。」
消えていくスクロールを捨てると、セルキスソードを抜き、ルシアは神殿の床を始めて蹴り、駆けた。
「本当に俺がしたかった事は・・・」

ルシアは唯一人で神殿の床を鳴らして走った。
(地図は無いけど、魔物が居ない道を歩けば、きっと皆に会えるはずだ・・・)
そう思いながら薄暗い神殿の周りを見回した。
(ここはケタース神殿とは雰囲気が違うな・・・)
違いはやはり空気だろうか。ケタース神殿ではゾンビが居たからか、人の死臭が鼻を突いていたが、ここは全くそれを感じさせない。
たとえ臭いがあったとしても、どこからか吹いてくる風で換気されてしまうだろう。
そこら辺には敵の持っていたであろう武器がある。きっとここから先に行けば誰かと遭遇するはずだとちゃんと伝えていた。
「・・・・・・誰だ!?」
ルシアは足を止めてそう叫んだ。
後ろから誰かの気配がする。
「ほぉ、なかなかやるな。小僧。」
「足音俺の履いてるのは革靴なのに金属のブーツの音がしたからね。ばれるに決まってるだろ・・・」
ルシアは振り返りもせずに眼を閉じては深呼吸をした。
「感がいいな、小僧。だがお前もここで朽ちる!」
「!!」
その瞬間にルシアは振り返った
敵が飛び掛り、丁度頭上で斧を振りかざしている。黒衣を纏っているが分かる。ウォーリアだ。
「ちっ!」
鈍い金属音と共にルシアの体が下に反れる。百キロ程度じゃすまない程の重さ、そして速度で斧が振り下ろされていた。スクロールを使っていたからこれで済んだだろうが、生身では地面に叩きつけられてただろう。
「なかなか出来る。だがっ!」
ウォーリアはさらに斧を構えるとそれを空振りした。
ゴウッと風が唸ると目に見える程のマナを結集させた風が迫る!
「っ!うあっ!」
ルシアは横へと倒れこむようにそれを避けるとその近くの壁が軽々と引き裂かれ弾き飛ぶのを見た。
(あんなの食らっちまったら、死んじまう!)
「俺のウインドブレードを避けるとは・・・面白い奴だな。やはり貴様も神団の奴らか。」
「そうだ。俺はよく知らないけど、アンタ達を討伐しに行ってるというのは聞いている。だから・・・倒す!」
「ふっははははは!流石、神団の連中は忠実な犬というわけか。なら倒して見せろ!小僧!!」
敵が斧を構えて走ってくる!ルシアは剣を構えるとそれにぶつかる様に走った!
「っ!このおお!」
斧と剣が交える。ウォーリアの圧倒的な力にルシアは少しずつ押される。
(俺がスクロールを使ってもこれだけの力なんて・・・)
「ふっ!どうした小僧!眼が在らぬ方に向いてるぞ!」
「なっ!!」
そういわれた瞬間にルシアの剣からは既に斧は外されてルシアは前屈みになっていた。
「終わりだ小僧。」
耳に突き刺さるような冷く囁くと、敵は斧の柄でルシアを地面に叩きつけまいと背中へと振り下ろす!
「がぁっ!」
ルシアの体が地面に叩き付けられたが、ルシアはあまり痛みを感じなかった。
(ディフェンススクロールのおかげ・・・まだいける!)
ウォーリアが勝利の笑みを浮かべて斧を振り上げていた。
「不甲斐無いな小僧。さらばだ!」
「やらせるかっ!!」
ルシアは横へと転がると、左手で腰のベルトから瓶を探った。顔の横で地面に斧が突き刺さり、音が耳に響く。
(これだ!!)
ルシアはビンの栓を親指で弾くとそれを敵の顔へと投げつけた!
「!!」
敵は大きく眼を見開き、手を顔にかざそうとしたときはもう遅かった。
「ぐっ、ぐああああああああ!!」
敵が悲痛の叫び声をあげると斧を手から離し、顔を両手で押さえる。ルシアの持っていたカニヴァラスの毒が眼に入ったのだろう。
ルシアは咄嗟に立ち上がると剣を突き立て、敵へと走った!
「うっ・・・うあああああ!!」
「!!」
皮膚を突き破り、肉に突きぬく感触が手に伝わる。
「ぐおっ!」
「あっ・・・ああ・・・」
ルシアは泣き声にも近い声で唸るとゆっくりと眼を開けた。
剣は、セルキスソードは敵の胸から背中へと突き抜けている。
ルシアは驚愕の表情で眼を大きく見開いた。
「ぐっ!」
剣を引き抜こうとしたが筋肉が締まって抜けない。
敵の腹に足をかけると蹴飛ばして、悲痛な音をあげて剣は抜けた。敵が倒れこみ鮮血がそこらじゅうの壁に飛び散る。
「はっ・・・はっ・・・」
ルシアはそこで腰を抜かして倒れる。
「見事だ・・・小・・・僧・・・」
名も知れぬ敵はルシアのほうを見る。実際は見えてなくとも。
ルシアは我に返ると腰の抜けたまま敵に話しかける。
「言え!お前らの目的を!何でこんな事をしているのか!!」
「くくっ・・・いずれわかるさ。世界をまた闇へと・・・シュレイダーは失敗したが・・・今度こそ・・・」
「な、何だ!何なんだよっ!答えろっ!!」
しかしそれ以上は倒れこんだ敵が口を開くことは無かった。
「・・・俺、俺は・・・」
ルシアは血のついたセルキスソードを痛ましい眼で見つめた。

「もしかしたら既に上に逃げられているのかもな・・・」
ラルフは革の篭手をした手の甲で額を拭うと、微かに呟く。
「でも、どちらにせよ奴らはここからは出られないと言うことになるな。この神殿の入り口も、出口も既に我々が塞いでるはずだからな。」
一人のマジシャンがそう返した。
「とにかく上に上がるしかないな。ここは探したがいる気配はもう無いみたいだしな。」
ラルフは手を先へ行くぞとばかりに振ると、兵士達も歩き出した。
「!!」
ラルフは振り返ると直ぐに刀を構えた。
「いたのか!?」
「待って!ラルフ!!」
武器を構えかけていた兵士達は自然と構えるのをやめた。
「お前・・・ルシア!?」
「よかった・・・まだいたんだ・・・」
ルシアは荒く息をしてラルフを見た。
「どうしたんだよ。宿舎で寝てるんじゃ・・・」
「皆が戦っている時に俺だけ寝ちゃいられないと思って。」
ラルフは口元だけで笑って見せていた。
「あ、そういえば・・・あいつらは。あの黒い奴らは何か企んでるんだ。」
「・・・・・・わかった。最初から詳しく話せ。」
ラルフはルシアの表情を伺うとそう言った。
「俺、あの黒い奴らの一人と戦ったんだ。」
「なっ・・・じゃ、お前・・・その敵は?」
ルシアは奥歯を噛み締めてラルフから眼を逸らすと言った。
「そいつは。俺が、殺した。」
「そっか。」
ラルフは深くは突き止めずに、そのまま流した。
「それで、アイツが死ぬときに。シュレイダーは失敗したが、今度は・・・って。俺には良く分からないけど。」
「シュレイダー・・・失敗・・・。」
手を口元に当ててラルフは唸った。
「だけど。奴らが何かとんでもないことをしでかそうとしているのは確か・・・か。」
ルシアは頷いた。
「じゃあ俺達は直ぐに最上階まで上がってヴァレンさん達に報告しなきゃいけないな。よし、皆!いくぞ!」
ラルフは「あっ」と言うとルシアを見た。
「お前も勿論俺達と一緒に付いて来いよ。頼りにしてるからな。」
ラルフはわざとらしく笑うとルシアの肩を軽く叩いた。
「ルシア・・・?」
後ろから他の兵士達の足音で消えてしまいそうな声で話しかけられたのにルシアは気づいた。
「キャロル・・・君もここだったんだ。」
キャロルは頷くとルシアを見上げた。綺麗な瞳をしている。
「私たちは私たちの世界を守らなきゃいけないの。彼らは。シドス達とは全く違う道を選んでいるのよ。だから・・・」
キャロルは自分で言いかけていた言葉を断ち切ると首を振った。
「ごめん、ね。やっぱりなんでもない。行きましょ皆と一緒に。」
「うん。ありがとう。」
ルシアは意味も分からずにありがとうと言ったが彼女には届いていなかった。
でもルシアにはキャロルが繋げようとしていた言葉が静かに耳に響いてくるような気がした。


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